第01話

 それは涼しげで心地よい夜でした。

  雲は少なく、今日のお月様は明るい。

  風が草花の匂いをふわりふわりと運んできます。

  広大な草原には点々と木々が立っています。ひらけた草原にある、大きめの木の根本から明かりがポツンと漏れていました。

  その大きな木の根本は、丘のように土が盛られており、中をくりぬいていました。そこに、板で壁を作り居住空間がつくられていました。

  こぢんまりとした家になっていたのです。

  その家の窓から明かりが漏れていいます。

  二階建てで、一階が主に生活する空間、二階が寝室になっています。 その二階の窓から、外を眺めている者がいました。

  それは、青水色のフワフワとした二頭身で、四つの長い耳としっぽがチャームポイントの"フムフム"です。

 「今日の満月はキレイだなあ……」

  お月様もお星様もよく見えます。窓に耳をかけ身を乗り出すように、そんな空を眺めて居ると、とある異変に気づきました。

 「あれ……流れ星?」

  夜空の星がゆっくり動いているのです。流れ星のような速さではありません。

 「疲れているのかな……」

  その日はいつもと同じように過ごしたつもりでした。ここ最近は気持ちの良い晴れの日が続いた為、日に当たり過ぎて疲れているのだと思いました。

  次の夜も、昨晩の不思議な出来事が気になったフムフムは空を眺めました。しかし、今夜は星がゆっくり動くなんて事はありません。

 「なんだ、気のせいか……」

  なんとなく違和感が残ったものの、あんな不思議な事がある筈が無いと自分を納得させ、その日は眠りにつきました。

  更に次の夜も空を眺めていたところ、残っていた違和感が気のせいではない気がしてきました。ここ連日は晴れ日が続いていて、今夜も雲の少ない晴れです。

  しかし、夜空のお星様がいつもより少ない気がするのです。

 「こんなに星って見えないものだったかな……」 

 夜空には、まんまる大きなお月様と、僅かなお星様がいくつかポツン、ポツンと輝いているだけです。

  何度目を擦ってみても、明らかにお星様の数が少ないのです。

  こんな事が有るのかと、よく分からず不思議そうに眺めていると、一つ、二つとゆっくり、ゆっくりとお星様が動き出しました。

 「んーっ? なんだろう……アレ……」

  複数のお星様が同じ方向へ動いているようでした。流石にもう気のせいではありません。

  フムフムは外へ出て、ジッーと空を見上げました。

  やっぱりお星様が動いています。

  遠くの木々がざわつく音が聞こえました。

  花の香りを乗せた風がこちらへ向かって来ます。

  フムフムは長い耳を広げ、ザワザワッとやって来た風を掴み、ワッサワッサと羽ばたき、空へフワワーっと舞い上がりました。

  自然の風は気まぐれです。途中で行き先を変えたりします。風の乗り換え時は今まで養ってきた勘が頼りです。

  フワーっと上がったり、ブワッと上がったり、ゴゴゴーっと上がったりして、あっという間に地上が遠くなりました。

  今日は雲が無く地上までの距離感が掴みにくい夜です。

  キョロキョロと周囲を見渡すと、さっき見かけた星は、まだ少し遠くにありました。

  フムフムは方角を定め羽ばたくスピードをビューっと速めました。

  追いかける星が徐々に近づいて来ます。すると、星の向こう側に隠れる様に誰かがいる事に気づきました。

  どうやら星を運んでいるようです。

  前へ回り込もうもうと力強く羽ばたいた瞬間、「ニャッ!?」 という声と同時に頭に強い衝撃を受けました。


  声にもならないような痛みを受け、意識が遠退きます。

  視界が薄れる中でお星様は遠ざかり、フムフムの体は落ち始めました。 
	
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挿絵イラスト : ぱじかわ仮面

アニメ原画、ゲーム等のキャラクターデザインを経て、現在はフリーのイラストレーター・絵コンテマン。
ご縁があり小説版フムフムの挿し絵を担当させて頂くことになりました!
つやぷに(造語)した可愛いものが好きなので楽しいです💖
素敵な世界観が伝わるようにがんばります!

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